内分泌

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)から多内分泌代謝性卵巣症候群(Polyendocrine Metabolic Ovarian Syndrome; PMOS)へ:名称変更が意味するもの

はじめに

2026年6月に京都で行われた内分泌学会総会・国際内分泌会議に参加して、Teede先生の講演を聞き、PCOSからPMOSへの疾患名改定を知り、勉強になったので簡単にまとめたいと思います。

多嚢胞性卵巣症候群(Polycystic Ovary Syndrome; PCOS)は生殖年齢女性に多い疾患です。しかし、PCOSという名称は以前から「病態を正確に反映していない」と指摘されていました。

2026年、Lancetに掲載されたHealth Policyでは、PCOSの新しい名称として、多内分泌代謝性卵巣症候群(Polyendocrine Metabolic Ovarian Syndrome; PMOS)が提案されました。
*日本語訳はまだ正式には決定していないはずです。

https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(26)00717-8/fulltext


本稿では、なぜPCOSという名称が問題視されてきたのか、PMOSという新名称にはどのような意味があるのか、そして臨床現場でどのように受け止めるべきかを整理します。

多嚢胞性卵巣症候群という名称の問題点

1. この名称の問題は、「多嚢胞性卵巣」という表現により、病的な卵巣嚢胞が疾患の本態であるかのような印象を与える点にありました。PCOSでみられる卵巣所見は、いわゆる病的嚢胞というより、卵胞発育の停止や小卵胞の集積を反映した所見です。

2. 多嚢胞性卵巣症候群という名称は卵巣だけの問題という誤解がされやすく、診断の遅れや不十分なケアにつながっていた

3. PCOSに合併する代謝異常や長期的な健康リスクが無視されやすい

4. 患者にとって「卵巣」や「生殖」に焦点を当てた名称は、特に不妊症などの生殖能力に高い価値を置く文化的背景において、患者に対するスティグマを助長し、精神的な苦痛につながる可能性がある。

5. 誤った名称は、疫学的分類やICDなどのコーディングを複雑にし、代謝合併症に着目した研究資金の確保や一貫性のある政策立案を困難にしていた。

PCOSの内分泌代謝合併症

PCOSは卵巣だけでなく下記のように多系統に影響を与える疾患です。
 内分泌:インスリン・アンドロゲン・神経内分泌・卵巣ホルモン
 代謝:インスリン抵抗性・肥満・2型糖尿病・高血圧・脂質異常・MASLD・心血管疾患・睡眠時無呼吸
 生殖:排卵障害・月経異常・不妊症・妊娠合併症・子宮体癌
 精神:抑うつ・不安・QOL低下・摂食障害
 皮膚:痤瘡・脱毛・男性化

PMOSに込められた意味

PMOSはpolyendocrine metabolic ovarian syndromeの略であり、以下のような意味が込められています。

Polyendocrine(多内分泌性)

この疾患が単なる卵巣の障害ではなく、インスリン、アンドロゲン、神経内分泌、および卵巣ホルモンといった複数のホルモン系の相互作用による異常であることを示してます。

Metabolic(代謝性)

インスリン抵抗性、肥満、2型糖尿病、心血管疾患のリスクなど、代謝異常がこの疾患の本質的な特徴であることを明確に反映させています。代謝機能の障害は、遺伝的要因から臨床症状に至るまで、この疾患の根底にあると考えられています。

Ovarian(卵巣の)

「多嚢胞性(Polycystic)」という言葉が「病的な卵巣嚢胞が存在する」という誤解を招いていたため(実際には嚢胞ではなく卵胞の成熟停止)、これを消去した。代わりに「卵巣(Ovarian)」を用いることで、排卵障害や月経不順、不妊といった卵巣機能の不全をより正確に表現しています。

つまりPMOSは、PCOSを単なる婦人科疾患としてではなく、内分泌・代謝・卵巣機能が関与する全身性疾患として表現する名称です。

診断や治療は変わるのか

現時点で、名称がPMOSに変わったからといって、直ちに診断基準や治療方針が大きく変わるわけではありません。
成人では、従来通り、排卵障害、高アンドロゲン血症、多嚢胞性卵巣所見またはAMH高値などを組み合わせて診断します。
思春期では、月経異常と高アンドロゲン血症をより慎重に評価する必要があります。

一方で、名称変更により、以下のようなケアが適切に行われることが期待されます。

・月経異常や不妊だけでなく、代謝異常を評価する
・耐糖能異常、2型糖尿病、脂質異常症、脂肪肝、睡眠時無呼吸などにも注意する
心理的問題、QOL、摂食障害、不安、抑うつにも配慮する
・婦人科だけでなく、内分泌・代謝・プライマリケアとの連携を意識する

今後

今回の名称変更を経て、いままでは産婦人科領域の疾患として捉えられていましたが、代謝内分泌領域の疾患として、様々なデータが出てくると思われます。
私も外来において、よりPMOSを意識した診療をしようと思いました。
具体的には内分泌代謝異常を合併した生殖年齢女性において、PMOSの合併の可能性について月経異常を聴取し、他の内分泌代謝異常や男性ホルモン異常の精査をしたいと考えました。
PMOSの早期発見で将来の不妊症などのリスクを減らせることができればいいですね。
そのあたりの既存のエビデンスなどについても勉強してみたいと思います。

参考文献
Global Name Change Consortium. Polyendocrine metabolic ovarian syndrome, the new name for polycystic ovary syndrome: a multistep global consensus process. Lancet. 2026 Jun 6;407(10545):2329-2339.

ABOUT ME
guni
総合内科医として勤務。最近は主に内分泌代謝疾患と感染症がメインです。日々勉強したことを投稿しています。皆様の参考になればと思います。役に立ったらシェアをお願いします。間違いがあればご指摘下さい。 臨床に応用する場合は自己責任でお願いします。なお個別の相談には応じておりません。