・ダプトマイシン初回投与から2-3週間経って、発熱や呼吸器症状が出現した場合はダプトマイシン誘発性好酸球性肺炎を疑う。
・末梢血の好酸球数が上昇していることが多いが、1-2割は陰性のため、好酸球数が正常でも否定しない。
・ダプトマイシン中止±ステロイド投与で96時間以内に改善を認めることがほとんど。
ダプトマイシン使用中の患者にびまん性の浸潤影・すりガラス陰影が出現し、末梢血の好酸球数の上昇はなかったが疑わしい患者を経験したので勉強。
頻度
ダプトマイシン使用中に好酸球性肺炎を発症する割合は1.7-4.8%と報告されている。
高齢者ではさらに頻度が高い可能性がある。
リスク
男性、ベースの腎機能障害や血液透析、高齢、2週間以上の使用が関連していた。
ダプトマイシンの総投与量10g以上もリスクとされている。

病態
よく分かっていない。肺サーファクタントに結合したダプトマイシンの蓄積により細胞損傷、酸化障害、肺上皮の炎症が引き起こされる可能性やダプトマイシンに対するアレルギー反応がTリンパ球の放出、それに続くインターロイキンおよび好酸球の遊走を引き起こす可能性などが考えられている。
発症までの投与期間
2022年の330例(40%以上がBMI30以上)の後方視データでは、中央期間26日(幅2-60日)で11.5%が好酸球性肺炎を発症した。また再投与後、中央値3日(幅2-58日)で16%が好酸球性肺炎を発症した。
→初回投与時は概ね投与開始から2-3週間目で発症することが多い。
一方で、再投与時は投与開始から数日以内に発症することがあるので注意が必要。
臨床所見
症状は発熱57-100%、低酸素血症40-87%、呼吸困難75-94%。
検査所見
末梢血好酸球数
患者の15−20%は末梢血の好酸球数は正常を示す。
→よって末梢血の好酸球数上昇がないからといってダプトマイシンによる好酸球性肺炎は否定できない。
一方で、ダプトマイシン投与中の好酸球数>5%は好酸球性肺炎との関連が指摘されており(ダプトマイシン初回投与でOR2.23、再投与でOR12)、ダプトマイシン投与中に好酸球数が上昇してきた場合は好酸球性肺炎の発症に注意すべきである。
BAL
薬剤性の好酸球性肺炎の診断にはBALの好酸球の評価が含まれるが、あるシリーズでは25%以上の好酸球(薬剤性好酸球性肺炎の基準の1つ)を示したBAL検体は半分未満であった。
BALをすべての症例で実施できるわけではなく、さらにダプトマイシンによる好酸球性肺炎が疑われた時点で投与が中止されることが多く、BAL施行時には好酸球数が減少している可能性がある。
画像所見
49例を含むシリーズでは、胸膜下に多発する網状結節性浸潤影すりガラス陰影を伴うびまん性の両肺浸潤影など慢性好酸球性肺炎の一致する所見が認められた。しかし、急性好酸球性肺炎の特徴である胸水貯留も3分の2の症例で認められた。




Lyon algorithm

一般的な薬剤性好酸球性肺炎の診断基準をダプトマイシン誘発性好酸球性肺炎においては満たさないことが多いため、より感度が高いLyonアルゴリズムが提唱されている。
治療
治療は支持療法(人工呼吸器管理が必要な症例もいる)、薬剤中止、全身ステロイド治療である。3シリーズの101症例では、全例で改善を認めている。
薬剤中止後96時間以内に改善を認めることがほとんどである。
システマティックレビュー
74症例の最近のシステマティックレビューでは、43例にBALが行われ、好酸球数の中央値は20.5%(IQR 10.5-20.5、幅 0-98%)だった。両側の浸潤影が68.1%、すりガラス陰影が41.7%、斑状の浸潤影が30.6%、末梢優位の陰影を19.4%に認めた。ダプトマイシンの投与量は中央値6mg/kg(IQR 6.0-7.9)。症状はダプトマイシン投与開始から中央値19日(IQR 12-24)で出現した。末梢血の好酸球上昇は86.5%に認めた。治療はダプトマイシン中止のみが27%、投与中止かつグルココルチコイド投与は51.4%であった。96時間以内に87%の患者が改善を認めた。
・ダプトマイシン初回投与から2-3週間経って、発熱や呼吸器症状が出現した場合はダプトマイシン誘発性好酸球性肺炎を疑う。
・末梢血の好酸球数が上昇していることが多いが、1-2割は陰性のため、好酸球数が正常でも否定しない。
・ダプトマイシン中止±ステロイド投与で96時間以内に改善を認めることがほとんど。
〈参考文献〉
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