副腎出血は稀ではあるが、両側性の場合は副腎クリーゼのリスクがあるため速やかなグルココルチコイド補充が必要となる。
副腎腫瘍に伴う副腎出血を見逃さない。
明らかな誘因がない場合は抗リン脂質抗体症候群の検査を行う。
はじめに
副腎出血は稀であり、急性期疾患(腹痛、ショックなど)の画像検査において偶発的に指摘されることが多い。両側副腎出血は致命的な原発性副腎不全を起こすため、速やかにグルココルチコイドを補充する必要がある。稀な疾患のためデータは少なく、マネジメントのスタンダードは確立されていない。
病態
副腎は独特な血管構造を有している。3つの主要な動脈(上副腎動脈、中副腎動脈、下副腎動脈)からなる50-60の小動脈から豊富な血流を得ているが、静脈は相対的に少なく1つの主要な静脈(副腎静脈)につながる。このような構造から副腎は「血管のダム」とも表現され、出血しやすい構造となっている。
重度の身体的ストレスがかかるとACTHの産生が亢進し、副腎の動脈血流が増加する。またカテコラミン分泌が増加し、副腎静脈の収縮・血小板凝集亢進から副腎血栓が形成される。これらの変化によって副腎出血が起きやすい。
原因
副腎腫瘍の存在
褐色細胞腫
副腎皮質癌
転移性腫瘍
骨髄脂肪腫
副腎皮質腺腫
敗血症
凝固異常
抗リン脂質抗体症候群
ヘパリン起因性血小板減少症
抗凝固薬
ワクチン起因性免疫性血栓性血小板減少症
妊娠
血管内治療(副腎静脈サンプリングなど)
腹部大手術や冠動脈バイパス術
腹部外傷
COVID-19
TAFRO症候群
臨床所見
症状や所見で副腎出血に特異的なものはない。
副腎不全の場合はショック・低血圧83%、混迷79%、食思不振・嘔気・嘔吐55%を認める。副腎出血自体では側腹部に放散するような腹痛を50-65%、微熱50%を呈する。
画像所見
CT
出血の初期の場合は副腎の腫大、非造影での高輝度、混合性の信号、周囲の脂肪織濃度の上昇などを認める。中心部の低輝度を伴う周辺部の造影効果が見られることもある(tram-track appearance)。完成した出血の場合はCT値が50-90HUを示す。慢性の血腫の場合は中心部に低信号を伴う器質化病変となり(副腎偽嚢胞)、石灰化を伴うことがある。
副腎出血の特徴は経時的にサイズが縮小し、CT値も低下することである。
MRI
最も感度、特異度が高い検査。CTにおいて急速に増大する高信号の副腎腫瘍で、周囲の脂肪織濃度上昇を伴う場合は血腫が疑わしいのでMRIは不要。
急性期(7日以内):デオキシヘモグロビンが主体であり、T1高信号・T2低信号となる。
亜急性期(1週間から2ヶ月):メトヘモグロビンが主体であり、T1・T2ともに高信号となる。
慢性期:ヘモジデリンが主体となり、T1・T2ともに低信号となる。
超音波
出血の急性期:不均一な高エコー域を示す病変
出血の慢性期:低エコー域病変。嚢胞や石灰化を伴うことがある。
カラードップラー:無血管性の病変。
マネジメント
両側性副腎出血の場合はグルココルチコイドを補充する。
出血が持続していて、血行動態が不安定なときはIVRで止血もしくは緊急手術を行う。
それ以外の場合は基本的に保存的加療。
明らかな誘因がない場合は、抗リン脂質抗体症候群のスクリーニング(ループルアンチコアグラント、抗カルジオリピン抗体、抗β2GPI抗体)を行う。
グルココルチコイドを補充している場合は最初の1-2年は3-6ヶ月毎に早朝のコルチゾールを確認し、必要なら迅速ACTH試験で副腎皮質機能が回復しているか確認する。
CT/MRIを3-6ヶ月ごとにフォローし、副腎腫瘍が背景にないか確認する。
副腎出血は稀ではあるが、両側性の場合は副腎クリーゼのリスクがあるため速やかなグルココルチコイド補充が必要となる。
副腎腫瘍に伴う副腎出血を見逃さない。
明らかな誘因がない場合は抗リン脂質抗体症候群の検査を行う。
【参考文献】
Approach to the Patient With Adrenal Hemorrhage. J Clin Endocrinol Metab. 2023;108:995-1006. PMID: 36404284.