内分泌

TSH産生下垂体腺腫

〈概念〉
SITSHをきたす主要2疾患のうちの1つ。
SITSHについては以下を参照。

SITSH syndrome of inappropriate secretion of thyroid stimulating hormone ポイント SITSHという状態を認識し、適切に鑑別を行う。約8割は偽性SITSHであるので慎重にフォロー&別の測定系でも採血を行う真性...

TSH産生下垂体腫瘍は下垂体腫瘍全体の約1%と稀な疾患。3人/10万人。
その多くは1cm以上のマクロアデノーマ(77%)
*下垂体非機能性腫瘍の頻度は10%と高いため診断には注意が必要。
FT3,4が高値にもかかわらず、TSHが抑制されず基準値内から高値を示す、いわゆるSITSHを呈する
先端巨大症の合併が16%程度あり、先に先端巨大症として発見され、内分泌検査の異常値でTSHの同時産生を指摘されることが多い。

腫瘍においてD2の発現が低下してD3の発現が上昇しているのでT4→rT3に変換され、甲状腺ホルモンによる負のフィードバックを腫瘍が受けないと考えられている。
TSH産生下垂体腺腫はSSTR-2,5を発現していてソマトスタチンアナログによりTSH分泌が減少し、腫瘍も縮小する。
多くのTSH産生下垂体腺腫ではTSH分泌の概日リズムは消失している。

〈症状〉
①甲状腺中毒症:動悸、頻脈、発汗増加、体重減少など
②びまん性甲状腺腫
③頭痛、視野障害(30%)

〈身体診察〉
甲状腺腫大80%

〈検査〉
FT3,4
 基準値をやや上回る程度から基準値上限を2-3倍程度上回るものが多い。
TSH
正常範囲内が70%程度。TSHは1~5μIU/mLが半分以上を占め、10μIU/mLを超えることは稀。
 TSHと腫瘍のサイズに相関はない。TSHと甲状腺機能亢進症の症状とも相関がないのでTSHの生物学的活性が異なる可能性がある。

GH上昇15%
PRL上昇12%
FSH±LH上昇6%
αサブユニット上昇63% *保険未適応
 *閉経後や原発性性腺機能低下を伴う男性ではゴナドトロピン上昇によるαサブユニットが上昇するので注意。
αサブユニット(ng/mL)/TSHモル比(μU/mL)>1.0)80% 
性ホルモン結合グロブリン(SHBG)上昇90% *SITSHの鑑別となる甲状腺ホルモン不応症では正常

下垂体MRI
 他の下垂体腺腫と同様に造影効果の弱い腫瘍として描出される

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TRH負荷試験
 90%の症例で血中TSHは無〜低反応(頂値のTSHは前値の2倍以下)2倍未満が87%、2倍以上は13%
 *TRH試験は下垂体卒中を誘発することがあるため、視神経を圧迫するような大きなmacroadenomaでは施行しない

オクトレオチド負荷試験
 SSTR2,5の発現例が多いため、オクトレオチド100μgを単回に皮下注射すると70-80%の症例でTSHは半分以下に抑制され、負荷後4-6時間で最低値をとる

ブロモクリプチン負荷試験
 20%程度の患者でTSHが低下する

T3抑制試験
 T3 80-100μg/dayをを8-10日間投与すると健常人では完全にTSHが抑制される。RTH患者でもある程度抑制される。TSHomaでは抑制されない

TSH負荷試験、αサブユニット測定、T3抑制試験は甲状腺ホルモン不応症との鑑別に役立つ。
一方オクトレオチド負荷試験やブロモクリプチン負荷試験は術後の薬物治療の反応性を推し量るために行う。

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〈病理〉
嫌色素性、免疫染色でPIT-1、TSHβ,αサブユニット陽性。
TSH分泌腫瘍の興味深い特徴は、その多くが多ホルモン性であり、TSHに加えて、αサブユニット、プロラクチン(PRL)、GH、LH、および卵胞刺激ホルモン(FSH)を様々な組み合わせで産生すること。
bFGFの産生によると思われる硬い線維性の腫瘍であることが多い。

〈診断〉

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〈治療〉
経蝶形骨洞手術(経鼻的下垂体手術)
 腫瘍は硬く海綿静脈洞に浸潤するmacroadenomaが多いため、しばしば全摘が困難となる。
 そのような場合は薬物や放射線治療など術後の補助療法が必要となる。
 寛解率は84% 海綿静脈洞浸潤している場合は38%
 寛解率に影響する因子は海綿静脈洞浸潤(RR 72.4, 95% CI, 10.5-1546)と最大腫瘍径(RR 1.1 per mm, 95% CI, 1.0-1.3)。

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術前に第一世代ソマトスタチンアナログ(オクトレオチド、ランレオシド)または抗甲状腺薬や無機ヨウ素を投与して、甲状腺機能を可能な限り正常化させておくことが望ましい。

ソマトスタチンアナログの短期間(2週間)の投与で、90%の患者でTSHが平均74% 減少して、73%の患者で甲状腺ホルモンが正常となる。
 治療を継続すると84-95%が甲状腺ホルモンが正常になり、40-50%に腫瘍の縮小を認める。
 甲状腺腫大が20%の患者で改善。視野の改善を75%に認める。

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〈参考文献〉
The Pituitary. Fourth Edition. Thyrotrophin-Secreting Pituitary Tumors
間脳下垂体機能障害の診断と治療の手引き (平成 30 年度改訂)
Yamada S. Clinicopathological characteristics and therapeutic outcomes in thyrotropin-secreting pituitary adenomas: a single-center study of 90 cases. J Neurosurg. 2014;121:1462-73. PMID: 25237847.
Brucker-Davis F. Thyrotropin-secreting pituitary tumors: diagnostic criteria, thyroid hormone sensitivity, and treatment outcome in 25 patients followed at the National Institutes of Health. J Clin Endocrinol Metab. 1999;84:476-86. PMID: 10022404.

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guni
総合内科と内分泌代謝科で修行中。日々勉強したことを投稿しています。 皆様の参考になればと思います。役に立ったらシェアをお願いします。間違いがあればご指摘下さい。 臨床に応用する場合は自己責任でお願いします。