I. 主症候
1. 特異的症候 (注1)
1)満月様顔貌
2)中心性肥満または水牛様脂肪沈着
3)皮膚の伸展性赤紫色皮膚線条 (幅1cm以上)
4)皮膚の菲薄化および皮下溢血
5)近位筋萎縮による筋力低下
6)小児における肥満を伴った成長遅延
2. 非特異的症候
1)高血圧
2)月経異常
3)座瘡(にきび)
4)多毛
5)浮腫
6)耐糖能異常
7)骨粗鬆症
8)色素沈着
9)精神障害
上記の1.特異的症候または2.非特異的症候の中から一つ以上を認める.
II. 検査所見
1. 血中ACTHとコルチゾール(同時測定)がともに高値~正常を示す(注2).
2. 尿中遊離コルチゾールが高値を示す(注3).
上記の1(蓄尿検査可能なら2も)を満たす場合, ACTHの自律性分泌を証明する目的で, IIIのスクリーニング検査を行う.
III. スクリーニング検査
1. 一晩少量デキサメタゾン抑制試験
前日深夜に少量(0.5mg)のデキサメタゾンを内服した翌朝(8~10時)の血中コルチゾール値が抑制されない(注4).
2. 血中コルチゾール日内変動
深夜睡眠時の血中コルチゾール値が5µg/dl以上を示す(注5).
1, 2 を満たす場合,ACTH依存性クッシング症候群がより確からしいと考える(注6). 次に, 異所性ACTH症候群との鑑別を目的に確定診断検査を行う(注7).
IV. 確定診断検査
1. CRH試験
ヒトCRH(100µg)静注後の血中ACTH頂値が前値の1.5 倍以上に増加する(注8).
2. 一晩大量デキサメタゾン抑制試験
前日深夜に大量(8mg)のデキサメタゾンを内服した翌朝(8~10時)の血中コルチゾール値が前値の半分以下に抑制される(注9).
3. 画像検査: MRI検査による下垂体腫瘍の存在(注10)
4. 選択的下錐体静脈洞血サンプリング(注11)
血中ACTH値の中枢・末梢比(C/P比)が2以上(CRH刺激後は3以上)(注12)
V. 病理所見
下垂体腫瘍性病変において, 免疫組織化学的にACTH陽性もしくはTPIT陽性所見を認める.
[診断基準]
確実例:
① Iのいずれか, IIとIIIのすべて, およびIVの1または2と, 3または4を満たすもの.
② Iのいずれか, IIとIIIのすべて, およびVを満たすもの.
疑い例: IのいずれかとIIとIIIのすべてを満たすもの.
(注1) サブクリニカルクッシング病では, これら特徴所見を欠く. 下垂体偶発腫瘍として発見されることが多い.
(注2) 採血は早朝(8~10時)に, 約30分間の安静の後に行う. ACTHが抑制されていないことが副腎性クッシング症候群との鑑別において重要である. コルチゾール値に関しては, 約10%の測定誤差を考慮して判断する. コルチゾール結合グロブリン(CBG)欠損(低下)症の患者では, 血中コルチゾールが比較的低値になるので注意を要する. また, エストロゲン製剤の内服により血中コルチゾールが高値になることがある.
(注3) 原則として24時間蓄尿した尿検体で測定する. 施設基準に従うが, 一般に70μg/日以上で高値と考えられる. ほとんどの顕性クッシング病では100µg/日以上となる(RIA 法). 2022年4月から測定法がCLIA 法になってから, 従来法より幾分低値となっている.
(参考)y(新)=0.832(x旧)-4.23
(注4) 一晩少量デキサメタゾン抑制試験では従来1~2 mgのデキサメタゾンが用いられていたが, 一部のクッシング病患者においてコルチゾールの抑制(偽陰性)を認めることから, スクリーニング検査としての感度を上げる目的で, 0.5 mgの少量が採用されている. 血中コルチゾール3µg/dl以上でサブクリニカルクッシング病を, 5µg/dl以上でクッシング病を疑う. 血中コルチゾールが十分抑制された場合は, ACTH・コルチゾール系の機能亢進はないと判断できる. 服用している薬物, 特にCYP3A4を誘導するものは, デキサメタゾンの代謝を促進するため偽陽性となりやすい(例: 抗菌剤リファンピシン 抗てんかん薬カルバマゼピン・フェニトインなど). 米国内分泌学会ガイドラインでは1mgデキサメタゾン法が用いられ, 血中コルチゾールカットオフ値は1.8µg/dlとなっている.
(注5) ACTH・コルチゾールが周期的に変動し, 症状が寛解状態と増悪を繰り返す周期性を呈する場合があり, 注意が必要である. 可能な限り複数日に測定して高値を確認する. 唾液コルチゾールの測定は有用であるが, 本邦での標準的測定法が統一されておらず, 基準値が確定していない.
(注6) アルコール過量摂取, 慢性腎臓病, 鬱状態, 高度肥満やコントロール不良な糖尿病患者では偽性クッシング病の鑑別が必要な場合がある. DDAVP(4µg)静注後の血中ACTH値が前値の1.5倍以上を示すこともACTH依存性クッシング症候群の診断に有用である. ただし, DDAVPは検査薬として保険適用外である. デキサメタゾン-CRH試験が鑑別に有効な検査として知られている. 偽性クッシング病とクッシング病を選択的下錐体静脈洞血サンプリングで鑑別することはできない.
(注7) 高コルチゾール血症が重度である場合は, 確定診断検査より, 先に治療を優先させる.
(注8) 10mm以上の下垂体腫瘍では, 反応しない例を認める. 一方で, 殆どの異所性ACTH 症候群では反応しないが,気管支カルチノイドでは反応することがある.
(注9) 著明な高コルチゾール血症の場合や10mm以上の下垂体腫瘍では, 大量(8mg)デキサメタゾン抑制試験では, 血中コルチゾールが1/2未満に抑制されない例もある. 異所性ACTH 症候群との鑑別に有用であるが, 褐色細胞腫ではクリーゼの誘因になった症例が報告されていることや血糖値悪化の懸念もあり, 施行に際しては必要性と安全性を確認することが望まれる.
(注10) 微小下垂体腫瘍(腺腫)の描出には, 3テスラのMRIで診断することを推奨し, 各MRI装置の高感度検出法を用いる. ただしその場合, 稀ではあるが小さな偶発腫(非責任病巣)が描出される可能性を念頭に置く必要がある.
(注11) 下垂体MRIにおいて下垂体腫瘍を認めない場合は必ず行う. また周期性がある場合には必ずコルチゾール過剰が明らかな時期に行う.
(注12) 血中ACTH値の中枢・末梢比(C/P比)が2未満(CRH刺激後は3未満)なら異所性ACTH症候群の可能性が高い. なお, 本邦では海綿静脈洞血サンプリングも行われている. その場合, 血中ACTH値のC/P比が3以上(CRH刺激後は5以上)ならクッシング病の可能性が高い. いずれのサンプリング方法でも定義を満たさない場合には, 同時に測定したPRL値による補正値 を参考とする.
間脳下垂体機能障害と先天性腎性尿崩症および関連疾患の診療ガイドライン 2023年